2013年11月に久留米市にて焙煎所COFFEE COUNTYを、2016年9月には、Coffee Bar & Shopとして福岡市に2号店をオープン。県外からも数多くのコーヒー好きが集うこの店を営むのが、オーナーロースターの森崇顕さんだ。
住所を頼りに久留米市の店舗へと向かうと、レトロなタイル張りの建物に辿り着いた。そこは閑静な住宅街の一角。一見、店舗かどうか判断を迷うような佇まいではあるが、ひっそりと置かれた小さな看板には確かに「COFFEE COUNTY」と書いてある。店内へと足を踏み入れると一気にコーヒーの香りが広がり、左手には店内の4分の1を占める大きな焙煎機。そこでようやく、ここがコーヒーの専門店であることと確信する。巨大な焙煎機は毎日実際に稼働していて、その様子を見に訪れる人もいるらしい。
焙煎された豆は、各銘柄のイメージに合わせて描かれたイラスト入りのパッケージに入れてから店頭に並ぶ。すべてのパッケージに共通して添えられている“Vibrant flow in you”というメッセージも、COFFEE COUNTYのオリジナルだそうだ。
「その言葉は、“あなたの心を震わせる”というニュアンスなんです。コーヒーに限らず、本当に良いものを体験したときって、体のどこかが響いたり、心がザワザワと震えることがありますよね。この店のコーヒーを飲むことで、そういった感覚を味わって欲しい。そんな想いを込めています。」
久留米店にある大きな焙煎機。目の前で焙煎の様子を見ることができると、お客様の注目度も高い。
店内を見渡すと、アートやカレンダー、オブジェなど、インテリアのすべてにセンスを感じる。看板やパッケージなどのオリジナルデザインも、目を引くものばかりだ。そういったセンスの良さもさることながら、COFFEE COUNTYいちばんの特徴といえば、森さん自らが毎年必ずコーヒーの産地を訪れ、生産者と直接会って豆を選んでいることだろう。
「最初に“産地に行きたい”と考えるようになったのは、コーヒーを仕事に選んで12年目の頃。会社員として喫茶店や卸メーカーなどで働く中で、店舗の立ち上げや運営全般、工場勤務などいろいろな経験をしましたが、“これから先もコーヒーを生業としていくなら、産地に行かなければ”という衝動が湧いてきたんです。」しかし、長期で仕事を休んでまで産地を巡ることは、現実にはなかなか難しい。森さんは一度会社を退職し、中央アメリカへ行くことを決心する。
その時点ではまだ、“自分の店を持つ”という考えはなかったそうだ。しかし、産地で生産者と会い、話を聞き、自分も農業を体験してみる……そんな、日本では決してできない体験を通じて想いが変わっていったという。
販売している豆のほとんどがシングルオリジン。そのこだわりに、生産者への敬意を感じる。
「2013年5月から3ヶ月ほど産地を巡りました。まずはグアテマラで“カップ・オブ・エクセレンス”という有名なコーヒーの品評会に参加し、その後はニカラグアでコーヒー農園を営むセルヒオさんのもとで実際に働かせてもらったんです。合間に他の生産者や輸出業者も訪ねて……ニカラグア、ホンジュラス、エルサルバドル、コスタリカ、メキシコ……途中でパリのコーヒー展示会にも行きましたね。」
生産者の人柄や情熱も十人十色。豆の育て方やこだわりはそれぞれ違う。一人ひとりと向き合うことで感じたこと、学んだこと。そのすべてを、そのまま日本に届けたいと思うようになった森さん。しかし、会社員としての経験がある彼だからこそ、感じる壁があったという。
「会社員として働くなら、どうしてもコストなどの課題を優先すべきシーンが出てきます。どんなにいい農園の豆を知ったとしても、そこで自分の感じた感動や味を、そのままのお客様に届けるのは難しいと思ったんです。」
夢を実現するには独立しかないという答えを出した森さん。7月に帰国してから開店の準備に取り掛かり、11月には1号店をオープンさせているから驚きだ。
それぞれの豆について質問すると、森さんは生産者の人柄についてまで語ってくれた。
2店舗とも販売する豆の種類は同じだが、店内の空気感はまったく違う。豆の販売をメインとする1号店は、友達の家に遊びに来たような、どこか落ち着く居心地の良さがある。
「1号店のコンセプトは“家庭で飲むコーヒーをもっと美味しくする”なんです。ドリップコーヒーも提供していますが、お客様の目の前で淹れることで、“こういう風に淹れたら美味しく飲めますよ”と、実際に見てもらいながら説明したいという気持ちからはじめました。」
「アーティストはアトリエで絵を描く。
久留米市にある1号店。「自分の好きなものを集めていったら、自然とこうなりました。」
久留米市にある1号店のコンセプトが“こだわりの豆を提供する場所”なら、福岡市にある2号店のコンセプトは何なのだろうか。「現地で買い付けてきたコーヒー豆そのままの味を楽しんでもらいたいという想いが根底にある一方、僕たちが考える美味しいコーヒーを、ドリンクとして提供したいという想いもありました。だから2号店は、“自分たちで選んだ材料をきちんと料理する場所”にしたいと思ったんです。」言われてみれば確かに、2号店は1号店に比べてドリンクメニューの種類や席数が多めになっている。この空気感には“コーヒーを飲む時間を楽しむための場所”という言葉がしっくりと馴染むだろう。
2号店のオープンをきっかけに、全体のプロダクトやデザイン、ロゴなどもデザイナーの長尾周平氏と組んでコンセプトから考え直したそう。ドリップバッグをはじめ、カップやロットなど、オリジナルアイテムの販売をスタートしたのも、2号店がオープンしてからだ。
「器具を揃えてコーヒーを淹れるのって結構大変で、シチュエーションが限定されてしまうんです。でもドリップバッグなら、カップとお湯さえあればいつでも気軽にコーヒーが飲めますよね。ドリップバッグのパッケージに書いてある英語はすべて、“これひとつあれば簡単に1日が楽しくなるよ”というメッセージ。もっといろんな人に、気軽にコーヒーを楽しんでもらいたいと思ってつくりました。」
福岡市にある2号店。
ドリップバッグやラベルなどのデザインはすべて森さんの想いが込められたオリジナル。
COFFEE COUNTYを構成するすべてのものが、森さんの想いをしっかりと表現している。洗練されたこだわりを持つ彼が、数あるコーヒー器具からKalitaを選んだ理由を聞いてみた。
「同じ豆を同じ手法で淹れたとき、“
最後に、読者へのメッセージをお願いした。「ひと昔前まで、コーヒーといえば“毎朝家で飲むもの”という感覚で飲む人がほとんどだったと思うんです。でも最近では、いろいろなスタイルのお店があり、飲み方なども多様化してきています。自分の中ですでにあるコーヒーのイメージ以外の楽しみ方がきっとあるはずなんです。いろいろな良い豆を試して、いろいろなシチュエーションを体験して、“あっ、このコーヒーってこんな味がするんだ”“あれ、淹れ方を変えたら味もこんな風に変わるんだ”みたいに、今までに感じたことがない感覚や楽しみ方を知ってもらいたいですね。」
そう話しながら森さん自らが淹れてくれたコーヒーは、今までに飲んだことがない新鮮な味がする。一口飲み進めるほどに湧いてくる「もう一杯飲みたい」「他にはどんな豆があるのか知りたい」という好奇心。この感覚こそが、森さんが人々に届けたいものなのだろうか。
自分の中にあるコーヒーの常識を覆してみたい方はぜひ、COFFEECOUNTYのコーヒーを体験してみてほしい。
13:00~18:00
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