訪れる人と一緒に、“コーヒーをする”。
下町の風情を残しつつも、個性豊かな雑貨店やカフェが建ち並ぶクラフトの街・蔵前。その一角に店を構えるのがカフェCoffee Wrightsだ。地域に愛されるコーヒーショップとして、ファミリーから若者まで多くの人が訪れている。

白い外壁と大きな窓が印象的な外観。道路からも店内の様子がよくわかる。

 

駅前から伸びる大通りから1つ細い横道に入ると、大きなガラス戸の向こう側で、いくつかのコーヒー豆が丁寧に並べられている光景が目に入る。そのコーヒーショップがCoffee Wrightsだ。このショップを立ち上げたロースターの宗島さんと、バリスタの森田さんに、Coffee Wrightsがオープンするまでのストーリーを聞いた。

 

コーヒーに魅せられた2つの人生。

きっかけはカフェへの憧れ。

元々は美容師として働いていたという宗島さん。なぜコーヒーの世界に飛び込んだのだろうか。
「私の実家は美容室。親の影響もあって、私も美容師として働いていました。当時はちょうどSTARBUCKSが日本に進出してきた頃で、はじめて味わうマキアートに衝撃を受けましたね。そこで、店員さんが気持ちよさそうにコーヒーを淹れたり、接客する姿を見ていたら、次第に“あんな風になりたいな”と思うようになってきて。親の反対を押し切ってコーヒーの道に進むことを決めました。そして、まずは都内のSTARBUCKSでアルバイトとして、コーヒーの基本や接客を学ぶことに。当時は、コーヒーを通じてコミュニケーションを取ることがとにかく楽しかったですね」
このアルバイト経験から、どんどんコーヒーの世界にのめり込んでいった宗島さん。その後は、カナダやオーストラリアなどコーヒーの本場も含めた国内外のカフェで経験を積んでいった。

森田さんがコーヒーの世界に足を踏み入れた理由も、“カフェが好き”という理由からだった。
「元々私は、カフェ巡りが大好きで。20代のときにワーキングホリデーを使って、カフェ文化が盛んなオーストラリアに行くことにしました。そこで毎日のようにカフェに通ったんです。そこで本場のコーヒーを飲んだり、素敵なラテアートを目にしたり……バリスタという職業を知ったのもオーストラリアに行ってからですね。現地の店員はとてもフレンドリーで、カフェに行くたびに立ち話をしていました。でも、話ができるようになればなるほど、コーヒーのことをもっと知りたい、同じレベルでコーヒーを語りたいという想いが湧いてきて。自分で調べたり、店員さんに聞いたりしながら知識を深めていきました。」

 

これまでのコーヒー人生を振り返りながら話す宗島さん(写真左)と森田さん(写真右)。

 

2人の経験と技術が交わったとき。

時を追うごとにコーヒーの世界に惹かれていった宗島さんと森田さん。そんな2人はある日、オーストラリアの片田舎で出会う。
「オーストラリアに滞在中、いつものように現地でカフェ巡りをしていたら、日本人の女の子がコーヒーを淹れていたんです。それが宗島でした。憧れのバリスタという仕事を同じ日本人がやっているのをすぐ近くで目にして、“お話したいな”と思ったのを覚えています。最初は“美味しかったです”みたいな簡単な会話だったんですけど、そこから少しずつ仲良くなって、頻繁に連絡を取り合うようになりました。」

 

その後、2人は“店員とお客様“という関係が続いていたが、しばらくして森田さんも本格的にコーヒーを提供する道へと歩みはじめる。

 

「お金を貯めて、バリスタとして必要な知識や技術を学ぶスクールに通ったんです。そして卒業後しばらくして念願のバリスタとして現地のカフェで働きはじめました。そこで仕事をするようになってからは、“店員とお客様”ではなく、“同業者”として宗島と会話するようになったんです。」

 

カフェでの偶然の出会いから数年。バリスタとして同じステージに立つことになった2人。そんな2人が日本で共にコーヒーショップをつくることを決めた背景を聞いた。
「ビザが切れたので、私は森田より先に帰国してブルーボトルコーヒーでロースターとして働いていました。でも、あまりお客さんと関わる機会が少なくて。もっとお客さんの顔が見える仕事がしたいと思ったとき、今の会社の代表から声をかけられて、新しいコーヒーショップを立ち上げることが決まったんです。」

 

その当時、森田さんは、カナダの名門カフェ“フィル・アンド・セバスチャン・コーヒー・ロースターズ”で働いていた。
「当時は尊敬できる人に囲まれながら、学びの多い日々を過ごしていました。宗島からも一緒に店をつくろうと誘われていたんですけど、“ここで学びたいことを最後までやりきるまでは帰らない”と言って断り続けていましたね。」

 

「森田は小さな身体の中に強い意志を持っていて、すごく頑張り屋さんなんです。一緒にコーヒーショップをやるなら森田がいいと思って待ち続けて、帰国してきたタイミングを見計らって、すかさず声をかけてやっと一緒にコーヒーをつくれることになりました。」

 

森田さんが加わることで実現したCoffee Wrights。森田さんの技術と感性には、宗島さんも全幅の信頼を置いている。

コーヒーを、もっとカジュアルに。

“コーヒーをしたい”。その言葉を道しるべに。

海外のカフェで偶然出会い、同じコーヒー文化に触れながら経験を積んでいった宗島さんと森田さん。そんな2人がコーヒーショップをつくることは、“なるべくしてなった”と言ってもいいだろう。そんな2人が立ち上げたCoffee Wrightsの名前の由来について聞いてみた。
「このショップをつくる前、私と森田含め会社のメンバーで集まって“結局、自分たちは何がしたいんだろう”って話していたことがありました。そのとき、ある子が“私、コーヒーをしたいです”って口にしたんです。なんだかそれがとても力強くて、印象的で。そこから、“つくる人”という意味の“Wrights”という言葉を使って、店名は“Coffee Wrights”に決まりました。」

 

“コーヒーをする”という言葉には、コーヒーを愛する2人ならではの想いも込めた。森田さんは語る。
「自分たちの“コーヒーを突き詰めたい”って想いはもちろんですけど、“コーヒーをする”って言葉の中には、コーヒー豆をつくる農園の人、それを輸送する業者の人、それからコーヒーを飲むお客さん……農園から家庭まで、その流れに関わる人はみんな“コーヒーする人”だよねって考え方もあって。そんな“コーヒーする人”を増やしていこうという想いもCoffee Wrightsという名前には込められています。」

 

コンパクトな店内には、アレンジの効いた洋菓子や物販の取り扱いも。

 

生活の中で気軽に立ち寄れる存在になりたい。

コーヒーを取り巻くさまざまな人の、さまざまな営みに寄り添いたい。そんな想いでスタートしたCoffee Wrights。そのこだわりを表現するため、空間づくりをするうえで譲れないポイントがあったと宗島さんは話す。
「野菜だったら八百屋さん、魚だったら魚屋さんに行くような気軽な感覚で、コーヒーだったらコーヒー屋さんに行く、そんな感覚できてほしい。そのために、入り口の目に入りやすい位置にカウンターを置いて、歩いている人にコーヒー豆が見えるように陳列しました。なんとなくコーヒー豆が気になったら、ふらっと立ち寄って、手に取ってもらって、試飲もできる。その場は試飲だけでも構いません。出かける途中で試飲して、帰り道にもう一度立ち寄って、コーヒー豆を買っていただく方もいます。生活の一部としてカジュアルな感覚で使ってもらえる空間にしたいなと思っています。」

 

海外のカフェ文化を見てきた森田さんにも、理想のコーヒーショップのイメージがあったという。
「日本だとコーヒーショップって敷居が高いイメージがあると思うんです。私が海外で見てきたカフェは、店員さんとお客さんが友達みたいに話すことが多くて。だから、日本でも、もっと肩の力を抜いて楽しめる、 “コーヒーをする”場所があるといいなと思ったんです。」

 

店内に入るとすぐカウンターのコーヒー豆が出迎える。それぞれのコーヒー豆は気軽に試飲もできる。

このパートナー、このお客様だからこそ。

2人の信頼関係から生まれるコーヒー。

海外のコーヒー文化に触れ、同じ時間を過ごしてきた2人。つくりたいコーヒーのイメージは自然と重なり合うのだという。
「コーヒー豆は、森田と2人で買い付けに行っています。その場にあるコーヒー豆はそれぞれでチェックして、気になる品種をリストアップ。一通りチェックし終えたところで、2人がリストアップしたものを付き合わせると大体同じものを選んでいるんですよね。そうやって選定したコーヒー豆は、私が焙煎、森田がクオリティチェックをしながら微調整を繰り返して、店頭に置いています。」

 

相手の技術と感性をリスペクトし合っている2人のコンビネーションは抜群。宗島さんも「パートナーが森田じゃなかったら、店をつくるのは難しかった」と語る。

 

またCoffee Wrightsでは、単にコーヒー豆を売るだけではなく、訪れる人にコーヒーへの新たな気づきを与えている。バリスタとして日々コーヒー豆と向き合っている森田さんの視点は、訪れる人にも好評だ。
「お客さんの中には、“酸味がないものをください”とおっしゃる方も多くて。でも、実は“酸味”と一言で言っても、ただ酸っぱいだけではなく、甘みも含んだものもあるんですよ。試飲してもらっている中で、“これ、おいしい”って言ってくれたものが酸味を含んでいるものだったりもするんです。そのように、今まで知らなかったコーヒーの側面を知ってもらって、自然とコーヒーに親しみを感じてくれたらうれしいですね。」

 

焙煎機は2代目。ゆくゆくは直接産地からコーヒー豆も取り寄せて焙煎してみたいとのこと。

 

お客様にとって“ちょうどいい”コーヒーを差し出したい。

2人の経験と感性、そして絶妙なコンビネーションから生まれるCoffee Wrightsのコーヒー。その1杯を提供する際には、Kalitaのウェーブドリッパーを使っている。2人がKalita製品を使う理由を聞いた。
「ショップをオープンするときに、器具の選定をしていたときに、ちょうどカフェを経営している仲間がKalita製品を使い始めたんです。使い心地を聞いてみたら、“すごくいい”と教えてくれて。森田にも伝えて、ウェーブドリッパーを導入してみることにしました」

 

「宗島に提案されて実際に使ってみると、安定して同じ味を再現できるのでありがたいです。同じ人が淹れてもタイミングの違いなどで味がブレてしまうこともあるんですが、ウェーブドリッパーの場合、再現性が高いので助かります。」

 

最後に、読者に向けてメッセージをお願いした。
「私たちの店舗がある蔵前は、クラフトマンシップが根付く街。つくり手との距離が近いんです。私たちも身近なコーヒーのつくり手でありたいなと思っています。まずは気軽に訪れてもらって、“今日はどんなコーヒーがあるの?”“今はこれがおすすめだよ!”って八百屋さんみたいなやりとりをしながら、きてくれた人の口に合うものを提供していきたいと思っています。」

 

純粋に“カフェが好き”という気持ちからスタートした2人だからこそ、お客様と同じ目線に立って、その人にとってぴったりのコーヒーを差し出せるのかもしれない。そのようにコミュニケーションをとりながら“コーヒーをする”ことを楽しんでいると、ちょっといい時間、ちょうどいい時間を感じられるはずだ。

 

独特なデザインのグラスで飲むコーヒーも新鮮な体験だ。

Shop Information
Coffee Wrights & Kalita
Shop
営業時間
10:00 – 18:00
住所
東京都台東区蔵前4-20-2
定休日
月曜日
HP
https://coffee-wrights.jp/
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